Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 60年目の宝箱 BBMP7314.gif 〜ドリー夢小説
 

 


          



 何だか俄然とお話が分かりやすく、そして…知らなかったからなんて言って放っておいちゃあ、あたしたち馬鹿を見るのかもって方向へと、その輪郭を取り始めて。でも、
。さっき町まで行って来たっていうタケさんに聞いたんだけど。」
 お茶菓子を運んで来たお母さんが言うには、賄いのおばさんが、町での買い物から帰って来て早々に母さんへと声をかけて来てくれたらしくて。そのおばさんのお話によると…どうやらあの成金のお坊っちゃま、こっちにこの人たちが来たのをあたしたちが呼んだ強力な助っ人だと早合点でもしたらしく、
「力自慢をね、旅の人でも渡り剣士でも良い、島の人じゃなくても良いからって広場で大々的に募ってたらしいの。しかも、優勝したなら賞金は全部くれて、その上で褒美に金貨50枚って条件で。」
「な…っ。」
 何よそれっ。そこまでしても手に入れたいほどの、物凄いお宝があるっての? あう〜、ますます聞き捨てならないなあ。お宝がどうこうっていうんじゃなくって、そんな下世話な目的のためにウチが理不尽な借金背負って、その揚げ句、あの親子に頭下げてお金借りることになっちゃうかもって構図がサ。悔しいようって う〜う〜って唸ってたら、お兄ちゃんが客間へと顔を覗かせて、
「あんたらのお仲間かい? あの剣士さん。」
「え?」
 腕を肩から三角巾で吊ってる姿が痛々しいけど、ホントは…いつもなら自慢のお兄ちゃん。鍛冶屋はサ、体力とそれとは別に“体捌き”っていうか身ごなしのセンスが基本として必要だからね。やっぱり道場で“やっとう”も習ってて、そりゃあ強いんだよ? 開けっ放しになってた戸口から顔を出して訊いて来たのへ、
「ゾロのことか?」
 おせんべをお顔の形が変わりそうなほど口いっぱいに頬張ってルフィが訊くと、クスクス笑いながら頷いて、
「爺ちゃんがそりゃあ感服していてね。物凄い業物をそれぞれに、よくもまあってほど見事に使いこなせてる。一本だけ“じゃじゃ馬”がいるが、今んトコは力づく半分ながら、それでも押さえ込めてるのが凄いって、手放しで褒めててさ。」
 うわぁ〜〜〜。やっぱ本物だったんだねぇ、あの人vv 気難しくて仕事を選ぶ爺ちゃんが、そこまで褒めるなんて よくせきのことじゃん。研ぎ直しだけだったら3本全部、今夜かけて仕上げちまえるって話がついたらしくって、あ、裏の清泉の井戸までお水を汲みに行ったな。特別なお仕事用の特別なお水。あれもまた、祠の丘から染み出してる清水なんだよね。う〜、ホントにどうしてくれようか。職人さんの若い衆に呼ばれて出てったお兄ちゃんと入れ替わるように、腰を軽くして居間へと戻って来たゾロさんが、それが癖なのか最初にいた壁際に腰を下ろして、大きな背中を砂壁へ凭れさせてる。見るとはなしにそっちをぼんやりと見ていたら、
「お嬢さん。その剣術大会って、結構有名なものみたいね。」
 ロビンさんから声を掛けられた。
「あ、うん。それを見たさに毎年のように周りの島からもお客が来るほどだもの。」
 だから宿が一杯だったんだよ、きっと。今の形になって60回目ってことで、ホントはもっとずっと古い歴史もあるのよ? 昔々、あのゴール=D=ロジャーとかいう海賊王もまだ生まれてもない、ずっとずっと昔。海軍がまだこの海域にまでは足を延ばしていなかった頃にね、海賊を相手に自警団がそりゃあ活躍したんだけれど、群島のそれぞれから集まった顔触れだったから最初は団の統率が難しかったんですって。何せ、こっちはある意味で素人でしょ? どんな手だって使う海賊に、ただの力自慢だけでは勝てやしない。そこでってリーダーを決めるための勝負が開かれてね。後には団員を選出するためのテスト代わりになり、海軍が海域全体の警護にあたるようになるまでの結構長い間、勇猛果敢な戦士たちを選び出すためにって催されてた由緒のある大会だってわけ。
「そっか。そんな大会なのか。」
 チョッパーがルフィが、大きな眸をキラキラと輝かせていて、
「あたしも出るんだよ?」
 そうと付け足すと、
「ええ〜〜〜っ?! ってそんな強いのか〜〜〜っ?!」
 物凄く驚かれてしまいました。
(苦笑) だってさ、こうなったら数で攻めるっきゃないじゃんか。どうあっても負ける訳には行かないんだし。村の衆たちはこっちの味方をしてくれるんだろうけど、問題は…やっぱ“飛び入り”参加者だなぁ。港に近い広場で、そんな宣伝打たれたら、旅慣れてて強そうな剣士さんとか、みんなそっちの手勢になっちゃうよう。
「賞金に金貨50枚の上乗せか〜〜〜♪」
 あわわ…。ここにも危ない人が〜〜〜。
「ナミ〜〜〜。」
 一体何へと浮かれてるんだと、彼女の胸の内を察したウソップやチョッパーが思い切り眉を寄せて見せたものの、
「だって、言いたかないけど、今のウチのお台所ってちょっぴり“火の車”なのよ?」
「え? 燃えてるのか? メリー号っ。」
「そりゃ大変だっ。」
「…おいおい、物の例えだっつの。」
 ありゃりゃあ、それって嫌な雲行きですよう。そりゃあ、逢ったばかりのお方々にこっちの事情を押しつける訳にはいかないけれど、ゾロさんみたいなあんな強い剣士さんが向こうについたら、これはもう“勝負あった”って感じだし。
「でもサ。そんな腹黒親子がちゃんと約束を守ってくれるのかな。」
 こくりと小首を傾げたのはチョッパーで、
「お商売が左前で、しかも出てけって詰め寄られてんでしょう?」
 そうなのよね。あたしらとしては別に後追いする気はないけれど、こっそり夜逃げしちゃうんじゃないかって言われてたほどで。外海の得体の知れない業者からの借金も相当あるらしいって話だし。
「でも。結託している証拠はないながら、遠来の富豪風の観光客ってのと知り合いなのなら、最悪でも…黄金の剣っていうご神体を買い戻させるつもりらしいから、それで約束のお金は払ってもらえるんじゃないの?」
「ナミ〜〜〜。」
 凄いなぁ、この執念。
「だからそれってのは、ちゃんチに大枚払わせることになるんだってばよ。」
「そだぞ、しかも盗まれたんだぞ? そのご神体っ!」
 ウソップとチョッパーが、懸命に説き伏せようとしてくれてる。ありがたいやねぇ、うんうん。それへと、
「判ってるわよ。厚かましくも“それをチャラにしてやろう”って言いようで、問題の祠への権利を取り上げようって腹なんでしょう?」
 ナミさんも…そんな根本的なところの理屈くらいは忘れてないわよと声を大にして言い返し、
「でもね? だったら、同じチャラにしてもらえるのなら、おまけの賞金つきでって方がお得じゃない。」
 にっか〜〜〜っと笑って言葉を連ね、
「そもそも、どんなお宝が隠されてんだかは判ってなかったんだもの。そこで、あたしたちは向こうについて優勝して、賞金と金貨をいただいて。賞金はご神体を買い戻すのに使わせてもらえば良いのよ。」
 そうすりゃ、あたしたちだって金貨50枚もらえてサ、八方丸く収まるんじゃないの? いいアイデアだと思わない? 一気にご機嫌になっちゃったナミさんだったけど。
「悪魔のように計算高いところも素敵だっ、ナミさんっvv」
 サンジさんって、美人さんだったら何してたって良いのね。でもでも それって、微妙に褒めてないのでは…じゃなくって。やっぱり何かか収まらないんですけれど。
「そうだよな。そんな嫌な奴らに“負ける”なんてのは後味が悪いし、何かメンツが立たねぇじゃんかよ。」
「メンツでご飯が食えるかっ!」
 おおう。なんて力強い握り拳っ! 海で暮らすとこんな美人でも逞しくなるのね。ついついあたしまで感心しちゃってたら、
「でもね、航海士さん。あたしたちはこっちの身内だって思われているのなら、今から擦り寄って行ったところで信用されないかもしれないわ。」
 何とか傘下には入れてくれても、問題のご神体の買い戻し金額は土壇場で賞金よりも値段を吊り上げられちゃうかも知れないわねと。ロビンさんが冷静に言葉を足したので、
「う〜〜〜。」
 さしものナミさんも、そっかそれじゃあ意味ないわよねと、やっとのことで金貨への情熱へブレーキがかかったみたい。とはいえ、お名残り惜しそうなのもありありとしているし、何より…あたしからは何とも言い出せやしないこと。だって、あくまでも“あたしんチ”の事情だもん。皆さんには関係はないことだもんね。船での旅の途中なら、路銀だってたんと要るんだろうしさ。どうなっちゃうんだろって、ハラハラしながら見守ってたらば、

  「おい。俺の刀の手入れへの金は経費で落としてやるって前に言ってたよな。」

 これも不意に。壁に凭れて眸を伏せて、寝てるんじゃないかってほど黙ってたゾロさんが、張りのある良いお声で割り込んで来た。
「え? ああ、言ったけど?」
 意表を衝かれても、お金にまつわる約束を思い出す反発力は ずば抜けておいでであるらしく。あんたってば分け前をすぐにお酒に変えちゃうんですもの。いざって時に刀が折れただ欠けただなんてなことになって、しっかり働いてくれないじゃ困りますからね。威勢よくナミさんが言い返すと、
「此処の爺さんはそりゃあ腕が良い鍛治屋なんだがな。3本もの刀だし、全部をとなると結構なお足がかかるんだとよ。そのお代はどうやって払うんだ?」
「う…。」
 え? ウチはそんなベラボウなまでに高い方じゃないわよ? 確かに相手を選り好みするお爺ちゃんだけど、料金はあくまでも相場だし、気に入ればタダでって時だって…むがもがもが。
「…ロビン。苦しそうにしてっぞ?」
「あらあら大丈夫よ。加減はしているから。」
 ふみみ〜〜〜っ! 話の流れは判ったから離してくらさい。ふはあ、ぜいぜい。なんか今、判らないところから手が出たような…。そっか、ゾロさんてばそういう手で来たか。にまにまと笑いながら、どかすると挑みかかるよなお顔になってるゾロさんへ、ナミさんだって恐らくは…裏っ側に構えられた彼からの思惑くらいとっくに気づいているんだろう。そここそが忌ま忌ましいと言いたげに、ちょっぴり悔しいそうに口許をひん曲げながら、

  「………判ったわよ。」

 渋々ながら“了解”というお応えを返して下さった。それってねえねえ、もしかしてもしかして…っvv

  「じゃあ、俺たちはの側について、その剣術大会に参加するぞぉっ!」

 あああ、嬉しいっ! これで“鬼に金棒”だよう! 勿論、あたしも頑張るし、ウチの職人さんたちも、道場のお友達だって、こっちの傘下だ。こんな心強いことはないってばっvv 小さい子供みたいに嬉しさから家の中を跳びはねて回りたくなった あたしだったけれど、

  「いぃい?
   そんなまでなりふり構わずほしいって言ってるお宝なんだから、
   ついでにあたしたちで戴いてしまいましょうっ!」
  「おうっ!!」

 うわ〜〜〜。なりふり構ってないトコは良い勝負かもですよう、この人たちも。
(笑)
 





            ◇



 さてとて、明日の試合を前に、宵の内にも参加への申し込みと説明会とが催される。港の方の町の教会 兼 集会場へと足を運べば、奥まった一角には やな奴らが固まって座ってて。ひょろひょろのウラナリ野郎が、入って来たこちらへギロリと威嚇的な目を向けてくる。やな感じよねぇ。顔見知りの集まってる方へと向かい、一緒して来たゾロさん、ナミさん、ルフィにチョッパー。一緒に反対側の席へと着いてると、先に着いてたお兄ちゃんが申し込み用紙を何枚か持って来てくれた。ウチからは既に若い衆たちがエントリーしていて、ナミさんが大会要綱へとざっと目を通してる。
「今頃になって訊くのも何だけど、まさか真剣でやるってんじゃあ…。」
「ないないっ、そんな訳ないっ。」
 そもそもは“自警団のリーダーを決める”っていう勝負なのに、優勝者以外の全部が斬られててどうしますか。大慌てでブンブンと首を横に振ると、
「木刀とか棍棒、たんぽ槍ってトコかしら。」
 使っても良い武器の説明をする。刃を潰した打撃系の武器か、若しくは素手っていうのが基本のルール。勿論、くさり鎌だの、棘つきの鉄球だのなんてものは言語道断。ボウガンや火薬系の飛び道具もダメ。
「それと。悪魔の実の能力者はダメ。」
「え〜〜〜? なんで?」
 途端にルフィとチョッパーが愕然として見せる。チョッパーのこと、ルフィも出したかったんだろか。
「昔の本大会の頃はむしろ大歓迎されたんだそうだけど、今はね。不公平だからダメ。」
 殴っても利かないとか、体が風やの霞だの水だのになっちゃうなんてな体質になってたら、戦いようがないでしょう? それを使わないのなら良いじゃんかって? でもでも、叩かれても堪えないってのは、やっぱり不公平でしょう? 相手が疲れて“参った”って言って終わりなんてのはちょっとね。どんな体質になっているのかには食べた実によってばらつきもあるから、申告制ではあるけれど、その人の良心を信じてって格好で“ダメ”ってのが原則なの。
「海賊同士の戦いみたいに、命のやり取りなんだから手段は選ばないでいいとか“勝ったもんが正義だっ”なんてな世界じゃないんだし。」
 そう説明したところが、
「………う〜ん。」
 おやや? ルフィ、どうしたの? 困ったってお顔して。
「あのな、俺も実は悪魔の実を食べてんだ。」

  ……… え?

「もしかして、それって…。」
 ふぬぬと眉を寄せてるお顔があんまり可愛かったもんだから、そんなルフィへびしぃっと指を立てて見せ、

  「いい子いい子したくなるほどのふかふかお肌になる、モチモチの実とか?」
  「………。」

 もしかしたらあるかも知んないじゃんかっ、世界は広いんだから。///////






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  *さあさ、いよいよお話が動き出しそうです。